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【文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム事例集」345〜351頁より・一部修正】

■実施プロセス

群馬県内には、1990(平成2)年の入管法改正以降、いわゆるニューカマーと呼ばれる外国籍住民が集住するようになった(図1)。その集住化は、製造業が集積する邑楽郡大泉町、太田市、伊勢崎市に顕著に表れ、全国有数の外国籍住民集住地域が生まれた。中でも大泉町は外国籍住民が総人口の15.3%(2004年12月末現在)を占め、すでに近未来の日本に現れると予測されている移民社会の様相を呈している。生まれ育った社会や文化の異なる人々とともに社会を築く「多文化共生社会の構築」は、群馬県ひいては我が国における緊急課題となっている。


本学は、そうした地域的特性に根ざした諸課題を解決する教育・研究・社会貢献活動の推進を目標としている。また、その推進は、地域の自治体、産業、市民との連携により実施し、その成果を地域社会ならびに広く社会全般に還元し、地域社会の活性化を図ることを前提をしている(「国立大学法人群馬大学の理念および目標」)。群馬県の地域特性に根ざす「多文化共生社会の構築」に寄与する教育・研究・社会貢献は、本学が大学として重点的に取り組む領域のひとつに掲げ、1998(平成10)年度より継続的に取り組んでいる(「国立大学法人群馬大学中期目標・中期計画」)。 その取組としては、1教育学部をコアに、2地域連携推進室および3学務部学生支援課の3組織が相互にその特性を活かした取組を展開し、その実績を基に大学として総合的な教育カリキュラムを開発している。
以下に、これらの取組を説明する。

(1)教育学部での取組

多文化地域の課題としてもっとも早期に顕在化し、現在もなおその課題解決の要請が高いのは外国籍の子どもたちへの教育の問題である。日本語教育、異文化間教育、学校経営の問題など、子どもたちをめぐる教育問題は多岐にわたり深刻化している。群馬県内には600名のうち100名余りを外国籍児童生徒が占める公立小学校も現れている。
教育学部ではこれらの問題に1988(平成10)年度から本格的に着手し、多文化状況にある学校に対応可能な教育養成プログラムの開発のための調査研究を実施した(1998年度群馬県教育改善推進費「国際理解教育に関する教員養成カリキュラム開発のための基盤調査」)。1999(平成11)年度には、教育学部附属「教育実践研究指導センター」を「学校教育臨床総合センター」に改組し、異文化間教育の専任教員を配置した。異文化教育の専任を置く取組は全国的に見ても先駆的な試みとなった。教育実習事前事後指導では、太田市および大泉町の現職教員が講義を担当し、多文化地域の学校での教育の現状と求められる資質について実践的な指導を行っている。
教育学部では、文部科学省教員養成学部フレンドシップ事業を、学部の柱のひとつである「総合的・実践的指導力の育成」を目指す「体験的科目」(対象2年次生:1単位)に位置づけている。学校教育臨床総合センターが担当するフレンドシップ事業では、「日本語を母語としない児童生徒への教育」「多文化共生共教育」をテーマに、1999(平成11)年度以降6つのコースを開講し、多文化地域の学校に対応できる総合的・実践的指導力の育成に取り組んでいる。
とりわけ、「教師と共に創る多文化共生教育実践」は学生の継続履修への希望が強く、学校教育現場からの協力と期待も高い。それを受け、2002(平成14)年度以降は、2年次に実践力・3年次に企画力・4年次にコーディネート力の養成を積み上げていくようカリキュラムを構造化し、「教師と共に創る多文化共生教育実践」「多文化共生教育実践プロジェクト演習」「多文化共生教育実践インターンシップ演習」という3年間の教育プログラムとした。また2000(平成12)年度から大泉町で3~4日間の集中講座として開講してきた「教員研修連続ワークショップ」は、2002年度からは大泉町教育委員会との共催となり、町内7公立小中学校の教員の必修研修講座として位置づけられている。
上述した一連の教育・研究活動は、教育学部内にさらに広がりをみせ、2004(平成16)年度には「多文化共生教育・研究推進グループ」が発足した。ここでは天文学、日本文学、美術教育、日本語教育、障害児教育、声楽、教育社会学等、異なる教科専門領域の教員が学際的に多文化共生教育実践の在り方を探り学部教育の充実を図るカリキュラム開発を進めている。 教育学部では、日本語指導のできる教員の養成にも取り組み、2005(平成17)年度からは留学生センターと連携し、教職専門科目として「外国語としての日本語を考える」「外国語として日本語を教えるために」を開講した(対象2年次生以上:2単位)。さらに、次に述べる地域連携推進室および学務部学生支援課が推進してきた課外活動を、2005年度から正課の活動として認定し、教育学部の学生の積極的な参加を推奨することとなった。

(2)地域連携推進室での取組

上述したように、本学では多文化地域の課題解決について教育学部を中心に取組が進み実績を積んできた。しかしその取組からは、同時に教育面の取組だけでは限界があり、その基盤である家庭や地域に踏み込まなくては解決できない重層的な問題があることも明らかになった。 そこで2001(平成13)年度に、群馬大学教育改善推進費による「多文化共生研究プロジェクト」を発足させ、教育学部、社会情報学部、医学部、工学部および留学生センターの教員が共同で調査研究を推進し、教育、医療、福祉、行政サービス、ボランティアなどの各分野が横断的に関わるモデル事業の企画に着手した。 また、多文化共生社会の構築を実現するには、行政と具体的なサービスプランを練り、地域のボランティアや県や自治体とも連携し総合的に多文化地域の子どもたちを支援する体制整備が必要となる。2001年度に発足した「地域連携推進室」は、このプロジェクトを推進する環境を整えるため、民・産・学・官とのコーディネートを積極的に展開した。
2002(平成14)年度には、群馬県・群馬大学「多文化共生研究プロジェクト」として企画の内容と組織を拡充し、多文化地域の緊急課題として「子どもの教育と医療へのサポート」と「緊急事態対応システムの構築」を重点課題としてアプローチすることになった。2002~2004年度文部科学省地域貢献特別支援事業として選定を受けたこのプロジェクトは、1実態調査、2教育事業、3医療事業、
4交流事業、5防災事業、6人材育成、7情報提供、および8施策提言の8領域にわたる、のべ56事業を企画・実施した。2005(平成17)年度には、その実績をもとに、4月に群馬県新政策課に「多文化共生支援室」が設置され、また、大泉町に「多文化共生コミュニティーセンター」が設置されることとなった。
本学では1999(平成11)年度から年1回の「多文化共生シンポジウム」を開催している。1999・2000年度は教育学部が、2001(平成13)年度以降は地域連携推進室が主体となり、多文化社会が抱える課題とその対応の在り方を、県内外の有識者とともに検討し発信している。

(3)学務部学生支援課での取組

多文化共生社会の構築に寄与する教育・研究・社会貢献活動の展開の中で、予想を上回る効果が見られたのは、本学学生の積極的な参加である。一連の活動のほとんどが課外活動かつボランティア活動となるにもかかわらず、学生の参加は、3年間でのべ450余名を数えた。学生のその高い志と地域貢献への積極性をサポートするために、学務部学生支援課は2003(平成15)年度から参加学生の研修の充実と活動環境の整備に取り組んだ。
国立赤城青年の家において9月上旬2泊3日で実施する「地域貢献活動学生協力者養成講座」は、2003(平成15)年度には24名、2004(平成16)年度には36名が参加した。この研修を終えた学生を本学の「地域貢献活動学生協力者」として認定・登録し、学内外でのボランティア活動や研修の情報を提供し、派遣へのコーディネートを図っている。また、「学生ボランティア活動支援室」を設置し、学生活動の環境を整備した。 さらに、2004年8月~9月には、多文化地域での就業体験を通して、多文化社会に求められる共生マインドをもった専門的職業人を育成することを目的とした「多文化共生インターンシップ」を大泉町・大泉町教育委員会の協力のもと企画・実施した。学生24名が大泉町の小・中学校、保健センター、図書館、役場など10機関に派遣され就業体験をした。

以上の実績をもとに、これまで本学の取組を教育・研究・地域貢献活動の3つの側面から総合的に、かつ、全学的に拡充する、群馬大学・群馬県「多文化共生教育・研究プロジェクト」を2005(平成17)年に発足した。